Naoki Matayoshi|アーティスト・作家|1980年生まれ
お笑いコンビ「ピース」のボケであり、小説『火花』で芥川賞を受賞した芸人・小説家。
1980年、大阪府寝屋川市に生まれる。比較的貧しい家庭に育ち、幼い頃から本に親しんだ。高校ではサッカーの強豪・北陽高校に所属し、副キャプテンとして大阪府代表でインターハイにも出場する一方、小学生の頃には中学へ進んだ姉たちへ教室コントの台本を毎週書くなど、早くから書く才能の片鱗を見せていた。芸人を目指して1999年に吉本の養成所東京校へ入り、「線香花火」というコンビなどを経て、2003年から綾部祐二とお笑いコンビ「ピース」を結成した。
大の読書家として知られ、太宰治を敬愛し3,000冊以上の蔵書を持つ又吉は、芸人の活動のかたわら文章を書き続けた。そして2015年、自身が書いた小説『火花』で、新人小説家の登竜門である芥川龍之介賞を受賞する。お笑い芸人としては史上初の快挙であり、記者からの希望で異例の2度目の会見が開かれるほどの注目を集めた。この受賞を機に文化人としての活動も増え、同年GQ Men of the Yearに選ばれ、翌2016年には報道番組『NEWS ZERO』の月1回のキャスターにも就任した。
芥川賞受賞後、相方の綾部が活動の拠点をニューヨークに移したこともあり、コンビとしての活動は休止したが、ピンでの活動では今も「ピース 又吉直樹」の名義を使い続けている。コント作家として後輩たちとライブやユニットコント、YouTubeチャンネル「渦」の主宰に力を注ぎ、小説や随筆の執筆も続ける。物静かで温厚に見えて筋の通らないことには怒る頑固な一面も持ち合わせ、笑いと文学の両方を往き来しながら独自の表現を追求する稀有な存在である。
デビューして間もない頃から吉本の広報誌にコラムを書き始め、無報酬の連載を続けた経験が、のちの『東京百景』などの著作につながった。太宰治の旧居跡の近くに偶然住んでいたという縁や、神保町の古本屋を巡る日々など、文学と地続きの生活そのものが創作の源泉となっている。影響を受けた芸人としてダウンタウンを、ミュージシャンとして吉田拓郎を挙げるなど、笑いと言葉と音楽への深い愛情が作品の根底に流れる。芸人でありながら書き手として確固たる評価を得た又吉直樹は、ジャンルの垣根を越えて表現の可能性を広げ続けている。
サッカーに打ち込んだ少年が、本との出会いを通じて言葉の世界に深く分け入り、芸人として舞台に立ちながら小説を書き上げるという歩みは、他に例を見ない。『火花』での芥川賞受賞は、お笑いと文学という異なる世界の垣根を軽やかに越えてみせた象徴的な出来事だった。デビュー間もない頃から無報酬の連載を続けた経験が、のちの著作の土台となっている。寡黙で思索的に見えて、負けず嫌いで頑固な芯を併せ持つその人柄もまた、作品に独特の深みを与えている。芸人と小説家という二つの顔を併せ持つ稀有な存在として、独自の歩みを続けている。