John Locke|歴史上の人物|1632年8月29日生まれ
ジョン・ロックは、イギリスの哲学者であり、「自由主義の父」と称される人物である。1632年に生まれ、近代民主主義や憲法政治の基礎を築いた。1689年には主著『統治二論』と『人間知性論』を立て続けに出版し、王権神授説を否定して抵抗権を認めるとともに、人間の知識は経験から得られるという経験論を提唱した。彼の思想はアメリカ独立宣言やフランス人権宣言に多大な影響を与え、現代社会の根幹を成している。
17世紀のイギリスは、王権と議会の対立が激化し、政治的動乱の渦中にあった。この混迷の時代を生きたジョン・ロックは、それまでの絶対的な王権のあり方に疑問を投げかけ、近代政治哲学の扉を開いた。1689年、ロックが57歳の時に匿名で出版した『統治二論』は、当時の社会常識を根本から覆す内容であった。彼は「王権神授説」を真っ向から否定し、国家の権力は統治される国民の同意に基づくものであるという「社会契約説」を唱えたのである。
ロックは、人間は生まれながらにして生命、自由、財産という「自然権」を保持していると考えた。政府の役割はこの権利を守ることに限定されるべきであり、もし政府が国民の権利を侵害し暴政を行うのであれば、国民にはその政府を打倒し、新たな体制を築く「抵抗権(革命権)」があることを論じた。この過激とも言える思想は、後のアメリカ独立戦争やフランス革命において、革命の正当性を支える理論的支柱となった。現代の三権分立の原型となる権力分立論も示唆されており、彼の言葉は時を超えて現代民主主義の骨格となっている。
ロックの功績は政治学に留まらない。同じく1689年に出版された『人間知性論』において、彼は認識論の分野でも革命を起こした。当時の哲学界では、人間は生まれながらにして神の概念などの観念を持っているとする「先天的な観念」の存在が信じられていたが、ロックはこれを否定した。彼は、人間の心は生まれた時は何も書かれていない白い板、すなわち「タブラ・ラサ(未記入の石板)」の状態であると主張したのである。
ロックによれば、人間のあらゆる知識や観念は、その後の人生における「経験」を通じてのみ形作られるという。外界からの知覚と、それに対する精神の反省という二つの経験のプロセスこそが、私たちの知性を豊かにしていく唯一の源泉である。この「イギリス経験論」の確立は、近代科学の精神や教育学の発達に多大な影響を及ぼした。背景には、偏見やドグマに縛られず、自らの感覚と理性によって真理を追求しようとするロックの深い人間信頼がある。政治における自由と、知性における自立。この二つの軸を中心に据えた彼の思想は、啓蒙時代の先駆けとなり、今なお私たちが自己を理解し、社会を構築する上での重要な羅針盤であり続けている。